金融にいた頃、トップクラスの営業マンがうちの支店に指導に来た事があった。
うちもそこそこ成績は出していて、だけどどうしてもそいつの成績を抜く事ができなかった。
年は僕よりも少し下、まだ30くらいだったと思う。
そいつは不正をしていた。
なんとなくだけど、みんな気づいていた。
商工ローンの会社だったけど、個人を事業主に仕立て上げて融資を繰り返していた。
顧客はすべて、ある特定の人物からの紹介だった。
そいつがうちの支店に来てなにを語ったかはもう覚えていない。
ただそいつが休憩室で、窓の外を見ていたときの背中はいまだに忘れられない。
僕は訊いた、どうしたらそんなに契約が取れるのか、と。
本気半分、嫌味半分の言葉だった。
彼はなにも答えなかった。ただ全身に疲れたような、魂の抜けたような雰囲気が
あった。そしてそんな雰囲気を、他人の前に隠す事なく漂わせていた。
こいつは限界だと思った。
ほどなく、奴の不正がやくざサイドにばれる事になる。
支店が街宣車で囲まれ、わあわあと仕事にならない状態が何ヶ月も続いたという。
奴は家族ごと逃げて、今はどこで何をしているのかわからない。